100m走での風の影響を可視化してみた

僕は、中学~高校生の6年間、陸上競技(100m)をやっていたんですが、昔からふと疑問に思っていることがあります。

それは、走るときに吹く風の影響です。

僕が現役の頃にも、風の吹き方ひとつでタイムに大きく影響すると言われていました。「風速1mでおよそ0.1秒の影響がある」なんて言われていましたが、実際はどうなんでしょう?

ちなみに風速が+2mを越えると、「追い風参考記録」という扱いになり、公式記録としては認められないのです。とくに、世界記録が出るかもしれないオリンピックや世界陸上などの国際大会においては、「風」がとても重要なコンディションの一つとなります。

実際に全力で走ってみると、追い風では背中を押されてる感じがしますし、向かい風では思い切り抵抗される感じがするんです。思い返すと、、、「あーー、あの時、風が止んでれば良いタイム出たのに!!」と、自分の実力不足をしょっちゅう風のせいにしてましたね。今思うと恥ずかしい話です。

さて今回は、「100m走」と「風速」との関係を可視化&モデル化して、新しい知見を得てみたいと思います。なお、今回の検証は全てExcelで行ないました。

使用データ

データには、インターハイの100m歴代優勝者の記録を使用しました。

できるのであれば、人を固定し、また時期や天候、その人のコンディションもなるべく同じ状況の上で、色んな風が吹いているシチュエーションで走ってもらい、それをサンプリングするのが良いでしょうが、まずそんなデータはありません。そこで、インターハイ優勝者を、ほとんど同じ年齢・実力・時期・気温の同質のサンプルであると見なし、検証用のデータとして使用することにしました。また、風速の記録が残っている、1956年(第9 回)以降のものに絞っています。

データは次のようなイメージとなります。

風速とタイムの関係

早速、風速とタイムの相関関係を確認してみます。

バラつきが大きく、個人的には直感と反してる気がしました。

次に回帰直線を引いてみます。

ここで近似式にも注目します。数式的には、おおよそ無風のときには10.64秒で走ることができ、風が1m吹くとタイムが0.06秒早くなることが分かります。また、決定係数R^2(近似式の精度を示す)を眺めると、0.17程度であり低いことか分かります。これは、この近似式では現象をうまく表現できていないという意味になります。

開催回とタイムの関係

開催回とタイムの相関関係もみておきましょう。

長年、陸上競技のおっかけをやっていると、陸上界全体として、年々タイムが良くなってきているように感じています。その点についてもグラフを用いて確認してみたいと思います。

グラフを眺めると、風速よりも開催回の方が、タイムとの相関があるようにみえます。決定係数R^2も高いです。また、相関係数を計算すると-0.68であり、開催回が増すにつれタイムが速くなっていることを示します。

さらにグラフを眺めると、赤枠で囲んだ部分(下図)にはデータが存在しないことが分かります。第41回以降は、10.8秒よりも悪いタイムでは優勝できなくなっていることが分かります。それ以前の大会では、10.6秒を切る選手はほとんどいないことが分かります。これは、年々人の運動神経は上がっていることを意味しているのでしょうか?それとも昔は特別向かい風が吹きやすかったのでしょうか?(笑)いくつかの仮説が立ちますが、今回の主題と逸れてしまうため、これ以上深追いはしないでおこうと思います。

風とタイムの関係 その2

さて、開催回が最近であるほどタイムがよくなっている事実が確認できました。なるべく同質のグループで分けた上で検証を行いたいため、第40回以前と第41回以降で分けて考えることにしました。それぞれについて風とタイムの関係を再検証しました。

それぞれ決定係数が上がっており、視覚的にもタイムと風の相関はあるように思えます。数式を確認すると、第40回以前は、無風時は10.83、風速1mにつき0.077秒ほどタイム良くなり、第41回以降は、無風時は10.46、風速1mにつき0.068秒ほどタイム良くなります。

また、この結果から、速い人ほど風の影響を受けにくくなるのでは?というような仮説も思いつくことができます。同様に世界大会の優勝者や小中学生なども同様の検証を行い衝動に駆られましたが、それは次の機会にしようと思います。

まとめ

インターハイ100m優勝者において、風の影響がどの程度タイムに影響しているのかを定量的に確認しました。同様に、近年タイムがどんどん良くなっていることも確認できました。

(おまけ)

最後に、ほぼ無風の中、とてつもなく速い人がいますが、誰のことかわかりますか?

そう。今は9秒台の自己ベストを持つ桐生選手です。

グラフで眺めると、明らかに異常値であることが分かりますね(笑)

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